ほうこうレポート

ほうようポケモン、こうもりポケモン。

【物語】三頭龍の情愛

本編

からりらん。

ガラスの球がぶつかって、清涼感あふれる音を辺りに降らせた。

自分が来たことを強制的に周知してしまうこの来客の音が、彼女は少し苦手だった。

焦茶色基調のシックな雰囲気を纏う扉を、彼女はおずおずと押し開く。

今日に限って、気にする必要もないんだけど。

心の中で呟きながら。

扉に下げられた「CLOSE」の看板が揺れて、かたんと音を立てた。

マグマッグが大量発生したような熱気に包まれていたアベニューとは打って変わって、店の中は涼やかだった。

汗ばんだ彼女の肌から一斉に熱が引いていく。

決して狭くはない店内は、誰一人としてテーブルについていない。

一昨日店を畳んだんだよ、と言われても信じてしまいそうな光景。

テレビの撮影で訪れていなければ、普段このカフェが炎天下でも行列を作っているなんて、彼女も信じなかったかもしれない。

そんな彼女の視線は、彼に吸われて動かない。

彼はカウンター越しに話していたマスターに何かを言いながら手を一振りして、席を立った。

彼女は顔を隠すように目深に被っていた帽子を手に取って、小さな歩幅で歩く。

つかつかと彼がすぐ目の前まで歩いてきて、斜め下へ両手を広げた。

さっきまで彼と話していたマスターが白衣を翻して店の奥へ姿を消す。

彼女は何も言わない。

彼も。

二人が歩み寄って、あと靴一つ分。

彼女が両手を前にすぼめて、一歩前。

彼女より少し背の高い彼の首元に額を預ける。

彼の両腕が優しく彼女の背中を支える。

やがて近くの丸テーブルに、ピンクのリボンが巻かれた真っ白なキャノチェがふわりと置かれた。

帽子を置いて自由になった彼女の手が彼の腰に回る。

優しく彼女の背中を抱き寄せていた彼の右手が少し上へ。

花のように鮮やかな春色のミディアムヘアを、優しくなでつける。

シーリングファンがかき混ぜる空気の音と、2つの鼓動。

ふいと、彼女が顔を上げる。

頭一つ分上背のある彼の顎が見える。

半拍、彼。

彼女の後頭部に手を置いて抱きしめたまま、首を少し落とした。



  §  §  §  



「大丈夫なの?」

彼女の口から飛び出たのは、一言だけ。

「なにが?」

彼。

「お店。貸し切りだよね」

彼女。

そう言いつつも、彼女の目線はメニュー表から離れない。

右上に線の細い書体で「キッチンジャコブ」と書かれたハードカバー風のメニュー。デザートとタイトルのついたページに目を走らせる。

「ここは予約制度ないから」

既に予約していた人の席を取ってるわけじゃないから大丈夫、と彼は加える。

「そうだけど」

彼女もやんわり反駁しながら、その必要がないことはよく知っている。

彼がこの店を貸し切りにした――貸し切ってくれた――理由も、ジョインアベニューに立ち並ぶ人気カフェの中で唯一この店だけ予約制度がない理由も。

「貸し切ってた方がいいでしょ」

「ん、そだけど」

ねね、これかわいい。
かわいいよ。
はいはい。
映えるよね、ロコンの焦がしキャラメルサンデー。
んーでも、こういう普通のモンブランとかでもいいなー。
あー美味しそうだね。ポケモン用のだけど。
え、ポケモン用!?
左のページがニンゲン用で、右のページがポケモン用ね。
危ない危ない、ポケモンになっちゃうとこだった。
ピカー?ピカチュピ。
マスター! ポケモン用モンブラン一つ!
待った待ったなしなしなし!

不敵に笑う彼女に、眉を下げる彼。

「それはよくてさ」

「んー?」

なおもメニュー表とにらめっこする彼女に、少しトーンの下がった声をかける。

「疲れてない? 昨日ライブやったんでしょ?」

「ちゃんと寝たよー」

「どのくらい?」

「3時から11時」

「そっか、よかった」

彼は安心したと目を伏せる。

彼女がメニューを机に放りだして、彼に視線をぶつけた。

「そういうそっちはちゃんと寝てるの?」

「まぁそれなりに」

嘘。

彼の何かを考えるときに右上の虚空を見つめる癖を彼女は見逃さない。

「寝てないでしょ」

「仮眠はしたから許してよ」

「だめ」

うー、と顔をしかめて、彼は叱られたガーディのようなしょぼくれた顔。

似てるなぁ、と彼女の頭の中にはガーディ、ワンパチ、あるいはイワンコ。

映画撮影の演技以外でこんな顔を見られるのが自分だけであることを、彼女は密かに勝ち誇る。

尾を地に擦るようにお冷に口をつけながら、彼は話を逸らした。



「もう決めた?」

「これにする」

彼女が机に置いたメニューに指を伸ばす。

名を、ごく普通のパフェ。
このカフェで今一番話題がホットなメニューだった。
実際メニューに載せられた写真は名前通り普通のパフェ。
にしてはちょっと高いかな、普通のパフェの2倍はお値段張るね。……と思いながら注文すると、出てきたパフェは想像の3倍ある、というメニュー。
店主の淡々とした「お待たせいたしました。“ごく”普通のパフェです」という言葉とのギャップがすごいと噂になっている。

それを見て彼は眉を顰める。

「ちゃんとご飯食べた方がいいんじゃない?」

「えー、美味しそうじゃん。ちょっと早いおやつー」

「さっき起きて朝ごはんも食べないまま来たんじゃないの?」

ばれてる、と彼女の口が真横に伸びる。

「今日はいいけど、ちゃんと栄養摂ってね」

ただでさえ人よりもハードな生活をしてるんだから。

水を一口、彼から二言。

水を一口、彼女は考える。

今日はいいけど、なんて言われたって頼みづらいじゃん、とか。
でも不摂生は否定できない、とか。
心配してくれてるんだよね、優しいな、とか。
わたしだって同じくらい心配してるのに、とか。
結局心配するのって、自分が好きな人が失われるのが怖いから。自分のためでしかないよね、とか。
でも、心配してもらえて、自分を見てもらえて、嬉しい、とか。

あるいは――昔ぽろっと彼が遠い目でこぼした、「長生きしてくれないと困るから」という言葉を思いだしたり、とか。

そういう想いの末に、彼女は席を立った。

ここは貸切だから。

椅子に座る彼の後ろに回り込んで、そっと両腕を彼の首に回す。

茶髪の頭を丸ごと包み込むように、抱擁した。

彼は何も言わない。

目を閉じて、彼女の手に自分の手を重ねて、撫で付ける。

冷房の中でだんだん冷えてきた彼女の手を、優しい温度で温める。

「人のことばっか言わないでよね」

キュワワーが飛び交う陽だまりの花畑のような、優しい声で一言囁いて。

彼女はなんでもないように席に戻った。

彼は人が行き交うカフェの外の風景をじっと見つめる。

「やっぱりこれにしようかな」

彼女の声に彼が自分の居場所を思い出すと、指差されていたのは「野菜たっぷりボロネーゼ」

そう変えられてしまうと、それはそれで強制したようでばつが悪い。

今日まではいいよ? と、自分の言葉を上書いてしまって。

いいの、ボロネーゼの口になったの。と言われれば、じゃあ僕が頼むから、ちょっとあげるねと付け加える。

「ほんと! やったー」

無邪気な笑顔に、彼は決して勝てない。


  §  §  §  


「どうだったの、昨日のライブ」

注文を終えてマスターがカウンターに引っ込むと、彼が彼女に投げかける。

彼女は両手を組んで肘をテーブルに乗せて、彼の真っすぐな視線を受け流した。

「んー、まぁ楽しかったかなー」

楽しくなかったというのは嘘になるけど、満点ではなかったなー、と。

概ねそんな感想なのは、彼も見当をつけていた。

「何かいいことはあった?」

「そんなにないけどー……」

あ! と急に笑顔がまたたいた。

彼女の表情に彼もつられる。

「ファンの女の子からね、かわいいチャームもらったんだー」

彼女は膝の上に置いていたハンドバッグに両手を突っ込む。

彼は微笑んで優しく様子を見守っていた。

彼女が取り出したのは、つややかな光沢を発する長財布。

ファスナーの持ち手には、ヒメグマのキーチェーンがぶら下がっていた。

両手に持った大きなドーナツを美味しそうにほおばっている。

「おー、確かにかわいいねこれ。無邪気な感じ」

「でしょ!! 経済悪化とか格差社会とか全然知らなそうな笑顔がいい~~」

す,すごい例えだな……、なんて言葉が彼の頭の中にだけ反射する。

彼以外には聞けないであろう言葉。

昔の彼女なら彼にも見せなかった言葉。

昔の彼ならたじろいでいた言葉。

たまに突拍子もないのも、今の彼には魅力に映る。

ノーマルタイプ好きだもんね。
うん!!
ヒメグマにちょっと似てる。
え、わたし?
そー。
ひめ!ひめー?
ヒメグマちゃん、あんまり食べすぎちゃだめだよ。
…………。
……?
ぐまー!りんぐまー!
うわ進化しちゃった。子供泣くよ。
泣かないし!

爪を立てていた両手が下りて、彼女は腕を組んで右頬を膨らませる。

「じゃあ、なんか悪いこともあったの?」

再び彼が問いかけると、彼女は口の端を下げてへの字口。

こんなに綺麗に口角って下がるんだ、と彼は思いながら。

「それも明確にこれっていうのはないんだけど」

「うんうん」

「合間のトークで一緒に踊ってた子がちょっとうざったかった」

「あー、まぁあるよね。一緒に仕事してたら」

「『わたしたちアイドルしかやることないですもんねー?』とか言ってくるんだよ!」

なんとなく、あはは~と受け流す様子が彼にも呼び起こされる。

「それはどういう流れで?」

「司会の人に忙しいよね大変だねーみたいなこと言われたとき」

「あー、はいはい」

「わたしは他にも色々やってるわって」

「ニュースキャスターとかね」

水曜日の朝6時に必ず聞いているタイトルコールが彼の脳裏に響く。

「うん。レギュラー番組も持ってないのに同列にしないでよね」

彼の心の中で小さな彼が少し顔をしかめた。

いかに彼女がすごくとも、あまり言うものではない。
いや、そんなことは彼女も分かっていて、でもやっぱり思ってはしまうから。
そして、彼になら打ち明けてもいいと思えるから。


まぁそれは普通に返してあげればいいんじゃないの、相手も嫌がらせしたいわけじゃないと思うし、とか
まぁでも幕間のトークも変なこと言えないしそりゃ気が抜けないよな、とか

彼はそっと心の奥にしまい込む。



「あと」

彼女の声のトーンが下がる。

ちょっとした雰囲気の変化。

彼が椅子を引いた。

「ポケドル、なんてずっとやってて、大丈夫なのかな……とか」

椅子を持って立ち、彼女に寄り添うようにいすを並べる。





「どうして?」

彼女は彼の手をそっと握って、少し目を細めた。

「いつまでも続くわけじゃない仕事だし」

ポケドルはある種若さを売る職業。
容姿の面だけでなく、歌と踊りもそう。
何より、ポケモンとふれあい続ける体力の面でも。
なんのスキャンダルがなくても、10年あれば引退は確実、そういう仕事。

「嫌ってほどではないんだけど、最近うるさいファンも多いし」

嘘。

彼は優しく頭を撫でる。

「や、めっちゃ嫌いでしょ。いいよ言って」

少し見開かれた彼女の目。

数拍おいて、困り眉。

「めっちゃ嫌い~」

眉をひそめながら、彼女は少し甘えた声。

とろけたトリトドンみたいに体を脱力させて、机に突っ伏した。

彼女のかつての発言が彼によぎる。

趣味が私しかない人が嫌い。
人生の軸が一個しかなくて、そのたった一個が赤の他人だなんて、不健全。
人生を捨てないで、もっとちゃんと人生を生きた上で趣味の一つとして軽く応援してくれたほうがいい。

その考え方は、ポケドルとしても、一個人としても、いいものか悪いものかはわからない。
わからないが、彼女がそう考えるなら、彼女はその信念で生きている。

「なんかきもいファンレターも届くし」

きもい。まぁきもいか。
いかにありがたいにしても、自分にあまりある熱意を向けられることは、往々にして怖い。
自分だけの夢を見て、現実を歪めてしまった人も、中にはいる。

「このチャームは許してもらえたけど、なんかもらってもそういう人のせいで危ないからって捨てちゃうしさ」

自分のことを嫌いな人と、好きすぎる人は何をするかわからない。

俳優の身の彼にも、心当たりはあった。

「ファンからは神様扱いなのに、テレビとかだとアイドル枠のクイズ苦手キャラだし。温度差で風邪ひいちゃいそう」

「おいで」

彼の言葉に吸い寄せられて、彼女の頭が彼の肩に着地した。

「ここ貸切らなきゃいけないのだって、わたしのせいだし」

恋愛禁止、みたいな禁則がなくとも、やはりアイドルのスキャンダルは目立ってしまう。

波風を立てないに越したことはない。

胸に一物。
もし彼女が彼との関係を公表してしまえば。
余計な人目を気にする必要はないし、余計なファンもつかない。
何より彼女は彼だけのものになる。
合理的だ、と彼は密やかに。

それでも、彼の手は優しく春色の髪をくしけずる。

黙りこくった彼らの空間を、穏やかな雨音が包み込んだ。

「あ、雨降ってきたね」

「ちょっと前から降ってるみたい。どうせ通り雨だよ」

「ん」

外を見るのはしばしに満たず、彼女の顔はまた彼の首筋。

抱きかかえるように左手で撫でながら、彼。

吸って、吐いて。

深い吐息の音が2つ。

「やめないの?」

「ん」

わかっている会話と、わかっている会話。

「どうして?」

視えていながら問う彼は、悪戯、あるいは確認。

もし保守的に悩んでいるのなら、後押しするために。

「いっぱいポケモンといられるし」

ポケモンを持つにも、当然お金がかかる。
ポケモンにも依るが、一緒に暮らすための環境を整えて維持するには、それなりの費用と手間を要する。
食費もニンゲン1人と比べたって大きいポケモンならずっとかかる。
トレーナーが未成年であれば助成金が出たりはしても、それも有限。
就職だったり、賞金を懸けたバトル大会だったり、手段はあれど。
持つ以上は、養わなければいけない。
養えなくなれば逃がさなければいけない。
だから、普通のトレーナーはポケモンを何体も持たない。

「ずっとボールに入れておくわけにもね」

ポケモンをボールに入れっぱなしにしたときの警告音がどうのという話の前に、ずっとボールに入れていてはポケモンと暮らしているなんて言えない。
ポケモンはボールの中で生きている。
電子データとして生命維持活動が要らないだけで、意識としては籠に閉じ込められているのと同じ。

「ポケドルじゃなかったら、こんなに色んな子とはいられなかったなって」

彼女は今12匹のポケモンを持っている。
6匹のポケモンを持っていれば超一流のトレーナーと言われる中で、12匹。
それだけのポケモンと一緒にいられるだけのお金や時間は、ポケドルという立場による恩恵が大きい。
ある意味ポケモンは仕事道具なわけで、食費だのは事務所の経費。
ポケモンが体調を崩せばその看病で仕事をキャンセルしても怒られはしない。

「たしかにね」

あるいはポケドルという職だったから会えた、という意味も多分ある。

彼女のポケモンには、この地方に生息していないポケモンも多い。

「あとさ」

彼から離れ、席に深く腰掛けた。

「なんだかんだ、楽しいかなって」

視線を遠くそらして向こうの床を見つめる彼女の横顔は、揺らぎない。

「嫌な人に好かれるの嫌だけど、でもやっぱり神様気分は気持ちいいし。生きる希望になるのも悪くないかなって」

「これも気に入ってるんだ」

膝に置いていたポーチから、長財布を取り出す。

揺れるヒメグマのキーチェーン。

「やめられなくなってるなーって思うんだけど、でもずっとは続かないから、なんとなく焦る気分になるんだよね。最近」

彼女は下唇を少しとがらせて、ちゅー、と音を出す。

今やりたいことをやればいい。そのままやっていてほしい。
素直で率直な彼の気持ち。
彼の経験にも即してしまうから、甘言を与えたくなってしまう。

いつも言ってる気がするけど。

前置いて。

「何かあったら養えるくらいはあるはずだから、大丈夫。やりたいことやってね」

キミならずっとアイドルを続けられるよ! なんて無責任なことは彼には言えない。
間違っているものを間違っていないと嘘を言ってはいけない。
ほぼ続けられないという現実は間違いなく存在する。
その現実は受け入れた上で、対処を考える。
彼の経営経験から出した結論。
それが彼女の求めていた言葉かはわからなくとも。

「ん、がんばる」

彼女は腕を彼の腕の下に通して、しおしおと彼にしな垂れかかった。

パズルのピースのようにぴったりと、彼の首筋に顔をうずめる。

彼はふいとカウンターを一瞥した。

「悩んでるところもすきだから」

マスターが厨房にいることを確認して、あまいミツ。

彼女はぐりぐりと顔を彼に押し付ける。

「ありがと」


深い吐息。

雨の音。


  §  §  §  


「お待たせいたしました。ごく、普通のパフェです」

ごとり。

顔がすっぽり入ってしまいそうな大きさの器が彼の目の前に置かれる。

彼の隣に、大輪の花。

驚きを隠せない彼の分まで笑顔を咲かせていた。

「食べていい?」

「ん。待っててくれてありがとね」

彼女の目の前のボロネーゼはまだ湯気を上げている。

口角が上がりっぱなしの彼女が取ったのは、スプーン。

「あ、そっちから?」

「え!」

ちがうんですか! と。

冗談めかして驚いて見せる彼女。

思わず彼も相好を崩す。

「たべる~」

一番上のアイスクリームとブルーベリーの粒を大きくスプーンですくって、彼女は口に運んだ。

ふふふ、と花笑み。

釣られて彼も。

「食べないの?」

「見てよっかなって」

「えー」

言いながらも、意に介さず二口、三口。

人に見られ慣れているなぁとひそかに感心する彼。

彼女が満足してボロネーゼをつつき始めて、彼もモモンの花が咲くパフェを一口。

甘い。
昔は生クリームなんていくらでも食べられると思っていた気がするけれど。
これはそんなにたくさんは食べられないかもしれない。
健康にはあんまりよくない味もする。
まぁ今日くらいは、いいか。

思考の流れを断ち切ると、彼女がこちらを見ていた。

「ね、ね」

「なにー?」

「なんでポケモンあんまり捕まえないの?」

彼女はさっきの話の続きをご所望。

「んんー」

「お金がとかじゃないでしょ」

「そうだね」

「私と違って博士に渡せばお世話してもらえるし」

「まぁそうかもだけど」

「えー、じゃあなんでなの?」

「うーんと」

彼は困ったように一度遠くを見てから

「なんていうか、いやじゃん」

「そう?」

「その、一回捕まえたポケモンとは、ずっと一緒にいたいじゃん」

彼女に視線を戻して、少し気恥ずかしそうな彼。

彼女は彼の瞳を見つめたまま。

「なに」

何も言わない。

「…………」

「かわいい」

「もう……」

彼は撫で繰り回されて鬱陶しがるガーディのようなむくれた顔。

これだけ色々な事をしておきながら、根が一途。

彼らしい、と彼女は胸の中。

「ちょーだい」

彼の目の前のパフェにスプーンを差し込んだ。

彼女の声は音符付き。

「いっぱい食べて」

「そっちこそ。わたしはちょっとつまめたらいいの」

「いやこれほんとに結構大きいから」

「オーナーがびっくりしててどうするの」

「最近あんまり来てなかったから。話はちゃんと聞いてたんだけどね」

「やっぱりいろいろやってると忙しいの?」

「まぁ……そうだね。いいことなんだけど」

嬉しい悲鳴、と奇妙なタイミングでセリフが被り、彼と彼女は笑い合う。

「初めの頃はお店一個で必死だったんだけどね」

「ここが最初のお店なんだっけ」

「二番目かな。最初のお店の人はすぐやめちゃった」

「そうなんだ。ジョインアベニューの最初のほうの話って聞いたことないかも」

「する?」

「聞きたいー」

「いいよー。」

あんまりない気もするけど、と言いながら、彼は語りだす。

今はもう僕が正式にオーナーだけど、元々は別の人だったんだよ。
ライモンの郊外全部買ってこんな場所作るくらいにはお金持ってる人。
僕はライモンに行くのに近かったからたまたま通っただけだったんだけど、ビビっときたっていきなり言われて。
責任者やってよって。
いや無理でしょって断ったんだけど、強引にやらされちゃったんだよね。
あの強引なところは正直嫌いなんだけど、まぁ結果的にお世話になってるし、すごい人だよ。
そんなんではじめてさ。オーナーの顔と、僕がポケウッドに出てたっていうので最初から話題にはしてもらえてたかな。
店の募集を出して、いくつか来た募集の一つがここでさ。
ジャコブさんね、元々ポケモンのタマゴの研究をしてて、結構すごい人だったらしくて、
雑誌に載った時、そのまま研究を続けてた世界線も見てみたかった、なんて言われてたんだけど。
でも研究に飽きたって言って応募してきたの。
白衣は落ち着くからって今でも着てるけど。
変な人だけど、なぜか流行に乗るのが上手いんだよ。
いっぱい相談に乗ってもらったな。

「って感じかな」

彼が話を締めると、彼女はふーん、と一言。

彼の右手を取って、両の手で揉む。

彼の細身ながらごつごつとした手の強張りを、彼女の柔らかなタッチが溶かしていく。

「確かにあんまり研究者って感じしないよね」

「白衣は似合ってるんだけどね」

ボロネーゼの最後の一口を、案外大きな口で頬張る彼女。

彼女が番組で戯れていたホシガリスの様子を思い出す彼。

そんな彼女を見ながら、パフェの生クリームの乗ったアイスクリーム部分を大きく掬う。

たまには甘味一色の食べ物も悪くない。

「そいえばさ」

こくん、と最後のボロネーゼを飲み込んで、彼女。

「初めて会ったのって、その時くらいだよね」

口の端についたクリームを指で取って、彼。

「そういえばそうだね」

「仕事用のつけてたせいでライブキャスター落としちゃったやつね」

「いきなり電話かかってきてびっくりしたなぁ。他人の電話出ていいのかもわかんないし」

「出たじゃん」

「ごめん」

「出てくれないとわたしが困ってたんだけどね~」

つんと、ごく普通のパフェをスプーンでつつく彼女。

そういえば、今ここまでの関係になってから昔のことを話すのは初めてかもしれない、と彼の思いつき。

「最初の頃なんて思ってた?」

「え! 気さくだなぁって……とか?」

「とか?」

まだ何かあるの、彼の目線。

彼女はおどけた口振りで。

「ちょっと変な人だな、とか」

「ええー? そんな最初から?」

「だって、おやすみの日にしてること聞いたら、そらをとぶ練習なんて言う人おかしいよ!」

あははは、と明朗な笑い声。

「案外難しいんだよウォーグルに乗るの!」

「知ってるけど、最初聞いた時は頭はてなだらけだったよ」

「あの時はまだ喋るの緊張してたんだよ」

あーん、と彼女が彼にスプーンを向けた。

気恥ずかしそうに食べる彼を見て、彼女は花笑み。

「わたしはどうだった?」

「喋るのが上手な人だなぁって」

「そう? たしかにテレビの分慣れてるけど」

「なんかいつも話が盛り上がって、楽しいなぁって。話題作るの上手だよね」

「わたしも話しやすいなって思ってたよ」

じゃあ僕が上手だったか。
わたしですー!
いや僕の雰囲気がよかったおかげでしょ!
わたしがおしゃべり上手なだけだもんねー!
くっ、このパフェがどうなってもいいのか!
いやー、それだけはごかんべんをー。
大人しく武器を捨て両手を上げなさい!
泥棒と警察どっち役なの……。

まいいや、と彼女。

「あんまり何話してたかとかは覚えてないね」

「そうだね。もうずっと昔な気がするや」

彼女はまた彼の右手を取って、揉みほぐしながら、ぽつり。

「でも、初めて会った時からすきだったよ」

「……それは、僕もそう、かな」

揉みしだく右手を見つめたまま、ふふ、と彼女は息を漏らす。

「うれしい」

「ライブキャスターで圏外じゃなかった時、すごく嬉しくなってたし」

「わたしも、その辺りは自分のこといっぱい喋ってた気がする。好きになってほしくて」

「いろいろあったね」

「付き合った後もね」

「お互い忙しいせいで全然喋れなかったのが良くなかった、あれは」

「全然性格合ってないし。わたしは広く浅くなタイプだから、せまふかタイプの人の気持ちわからなくて」

「ニャースタイプとガバイトタイプってやつ?」

「お宝の集め方で喩えてるやつだっけ。そうそう」

「変に真面目なところだけは同じなんだけどね」

「ね。でもそのおかげだね」

右腕を引っ張って抱きつく彼女に、包み込むように応じて頭を撫でる彼。

今だって苦手な部分もある。
彼はいつだって必要以上に効率を求めて忙しなさげ。話しかけるのに少し勇気がいるし。
彼女は自分の気持ちに自分で嘘をつく。もっと素直に、やりたくないことはやらなくていいのに。
だいたい、ポケモンとの関わり方だって全然合ってない。
ジヘッドの2つの頭のよう。
無理に全部合わせなくても、お互いに合わない部分は放し飼いでいいのだと気付けたのは、ごく最近。
意地を張ったり考えを捨てられなかったりしないで、柔軟に。
ジヘッドたちだって、ケンカしながら許し合って、進化するその時まで仲良く暮らしているのだから。
家庭を持つことがサザンドラに喩えられる理由は、もう身をもって感じていた。


  §  §  §  

照りつける太陽も栄枯盛衰。

燃えるようなヤマブキ色の光は、しかし柔らかく窓際を照らしていた。

床から照り返る光が、カフェの天井に淡い影を2つ映し出す。

彼女はそっと彼の首元に顔を寄せ。

彼はふわりと優しく彼女の薄桃の頭を撫で寄せる。

机に乗った紅色の跡がついた洋皿と大きなパフェグラスが、隣の彼と彼女を見守っていた。

あんなにあったパフェは、彼と彼女のお腹に半分ずつ。

よく食べるな……と漏らした彼に、別腹だよと返す彼女。

別腹ってなんなんだろうな、マルノームでもあるまいし。

彼の苦笑はほのぼのと。

たわいない会話も過ぎていってしまったから。

ヤドンの歩みのようにゆっくりと、彼女が顔を上げて。

俯いて彼の左手を両手で握る。

彼の空いた右腕がまた頭を撫でれば、彼女の目線は彼の瞳へ。

彼はたおやかな微笑を彼女に振りかけて、


そっと口づけをひとつ。


すきだよ。

はにかむ彼女に、ほら、と帽子を手渡す。

キャノチェ目深に被って、椅子のバッグを手に取る彼女。

「またがんばろうね」

「……うん!」

振り返って、ごくゆっくりと、数歩を踏みしめて。

彼女はドアのレバーハンドルを押した。

「またね」

「ん、またね」

からりらん。

ガラスの球がぶつかって、清涼感あふれる音を辺りに降らせた。

彼女の姿が逆光に溶けて。

ぱたん。

閉じるにつれて動きが緩やかになっていく扉が、小さく音を立てて閉まった。

「またのお越しをお待ちしております」

カウンターの奥からマスターが顔を出し、扉に向かって深々とお辞儀を向ける。

沈みかけの太陽光が、彼の背中を淡く照らしていた。


挿絵

るすとりさんにサムネイルをいただきました。
いつもありがとうございます。


巻末

スタイル以前に甘味が口に合わなかった人もいるかもしれない。僕も苦手寄りです。
普段ポケモン視点の話を書いていますが、今回はニンゲンの話でした。
正しく二次創作ということで、ゲーム内の描写を多く参考にしています。

どの世界線を描いている?

普段はこちらとは違うポケモンがいる世界(向こうの世界)で本当にありそうなこと、向こうの世界のノンフィクション風と勝手に言って勝手に書いているんですが、
今回はキョウヘイ・ルリという完全にゲーム内のキャラが登場しています。

なので、立ち位置としては向こうの世界で書かれた二次創作風です。
1次創作された世界の中に入り込んでその世界の中で二次創作を書くという訳の分からない入れ子構造。
そのため、向こうの世界で作品が作られるという設定の時に使われていそうな言葉回しを意識しています。
向こうの世界では当然なので説明なく使っているが、冷静にこちら側の世界の人が読むにはわけがわからんだろ、みたいな表現を適宜この巻末で補足していきます。

ジャコブ

BW2で本当に出てきます。モブの名前。
スカウトすると、殿堂入り前はカフェ系、殿堂入り後は保育所系の店を作ります。
ジャコブがカフェ系を開いている世界線なので、かなり早期にスカウトされてるなぁ、みたいなことがわかります。
作中で、卵の研究をもう少し続けていれば~~みたいなことを言っていたのも、これを意識していました。

ジャコブさんね、元々ポケモンのタマゴの研究をしてて、結構すごい人だったらしくて、
雑誌に載った時、そのまま研究を続けてた世界線も見てみたかった、なんて言われてたんだけど。

ちなみにジョインアベニューで店を持つモブキャラには実は法則性があって、頭文字が「ア」「ジャ」「ジュ」「ジェ」「ジョ」のキャラしかいません。

尾を地に擦る?

尾を地に擦るようにお冷に口をつけながら、彼は話を逸らした。

そんな日本語はないです。
日本語訳すると「お茶を濁す」です。
「お茶を濁すようにお冷に口をつけながら、彼は話を逸らした。」
これなら意味が通ります。

「お茶を濁す」の本来の意味を調べると、
「茶道の場でその場にいた未識者が、とりあえず真似をしてお茶を混ぜている」
という話らしいです。
で、ちゃんと立てられてはいないから「濁す」になってしまっている。


チラーミィって、尻尾をほうきみたいにして辺りを掃く生態があります。
チラーミィは綺麗にするという意味を分かって尻尾で掃いているわけですが、
例えばそれを見たエモンガくんが真似して地面に尻尾をごしごしやっても、何の意味もない。真似してるだけ。むしろ汚れ伸ばしてひどくなってそう。かわいい。

……みたいな発想の結果「尾を地に擦る」になりました。

正直お茶もポケモン世界にはあるわけなのでいいかなぁとは思わんでもないのですが、
よく使う言葉なので別の言葉が生まれていてもおかしくないかなと。
あと茶道の存在自体は言及されてないですよねたぶん。

他にもいくつか、ああでもないこうでもないと考えていました。
最初:ヤバチャを濁すように
お茶をヤバチャに変えただけ。
いいか―と思っていましたが、冷静に考えて紅茶をぐるぐるやるメリットが一個もない。
というか、ヤバチャはかき混ぜられるのが弱点だし、飲んじゃうと体が乗っ取られるので、
むしろヤバチャに乗っ取られるリスクを低減するいい行いなのではないか。
となってやめた。
「ヤバチャを濁す」という慣用句はあってもおかしくないけど、その意味はたぶん「転ばぬ先の杖」みたいな意味になる気がする。
「念のため紅茶をかき混ぜてみたらほんとにヤバチャで助かったー!」みたいな内容。

次:はばたくモンメンのように

モンメンは風に流されて空を移動します。
羽ばたく意味はないです。
でも隣に鳥ポケモンとか来たら真似して羽ばたいたりするのかな(かわいい)
みたいな。
これは、羽ばたくことに意味はないですが結果的に空はちゃんとと飛べちゃってるので没にしました。
なんか適当にやったら上手く行っちゃったwみたいな慣用句になりそう。
でも真似して羽ばたくモンメンはかわいい。
羽ばたくというより葉ばたく?

パフェ

一番上のアイスクリームとブルーベリーの粒を大きくスプーンですくって、彼女は口に運んだ。
(中略)
彼女が満足してボロネーゼをつつき始めて、彼もモモンの花が咲くパフェを一口。

ブリーのみとモモンのみ、ではないんです。
1年前の僕だったら間違いなくブルーベリーではなくブリーのみにしていたと思います。
ポケモンの世界であることを意識したいがあまり。

簡単な話で、ブルーベリー学園という名前がある以上ブルーベリーは多分向こうの世界にもあるからです。
それ以外にも、いちごもバナナもサンドウィッチの具材として存在します。
野菜や果物はそれなりにこちらの世界と向こうの世界で共通していることがSVからわかっています。
こちらの世界のポケモンの都市伝説に、
「ポケモンはこの世界の動物となり替わっているから、向こうの世界にはこちらの動物がいないんだ」
というやつがあります。
そうだったら嬉しいんですが、実際は間違いなく違います。
微生物系のそれが説明つかなくなってしまうので。
向こうの世界にこちらの世界と同様の動物がいないのは、進化の過程が違うなり、力の差で淘汰されるなりしたのでしょう。
逆に、ブルーベリーとかは多分美味いから生き残ったんでしょう。
実際になぜそうなっているのかは、向こうの世界の神様にしかわからないものです。
解なし。

なんにせよ歴史を探訪する必要はないです。解がないですから。
僕にできることは、ブルーベリーがあちらの世界にあるのだと言われたら、ブルーベリーはありますと復唱することだけです。
僕個人としては、こちらの世界にあるものは向こうの世界にはないよ、と言われたほうが創造し甲斐があって嬉しいんですが。
でも向こうの世界にもあるよと言われた以上は、わざわざ捻るのもどうかなと。


まだ話は終わらないです。
ブリーのみもブルーベリーも向こうの世界にあるのだから、パフェにはどちらを使うべきか選択しなければならない。
しかもブリーのみもあまい&しぶいなので味が似ている。
というかブリーのみのモデルはブルーベリーなのでそりゃそう。
一周回って正直どっちでもよかったが、BW2ではブリーは入手手段が限られていたし、
ちょうどブルーベリー学園もイッシュなのでブルーベリーのほうが馴染みがありそうだということでブルーベリーをチョイスしました。

モモンのみはどうなんですか? というと。
モモは今のところゲームには出ていなさそう?
「ももいろ」という単語ではたくさん出ていますが。
モモワロウもいるよなーとか思っていたら、外伝開始のキーアイテムはまぼろしモモンだった。モモじゃない。
どっちにせよモモンのみは結構メジャーな食べ物だと思うので、ここはモモンのみをチョイスしました。
関係ないですが、地の文で髪色を表現するときに「桃色」を使いたくないという小さな抵抗はしていました。
理屈上は別に使ってもいいです。

あと、描いていただいた絵ではチョコソースをかけていただいたんですが。
ハートスイーツがあるのでチョコがあるのは確定。カカオも向こうの世界にはあるんですかね、恐らく。


ポケモンをボールに入れっぱなしにしたときの警告音??

ポケモンをボールに入れっぱなしにしたときの警告音がどうのという話の前に、ずっとボールに入れていてはポケモンと暮らしているなんて言えない。

これの話。
これは、「モンスターボールという存在は創作ではなく、向こうの世界にも本当にあるのだろうなぁ」というのが思考の起点。
現実世界で犬を捕まえたりするゲームがあったとして、
よし!じゃあ犬を電子化して小さなボールにしまえるようにしよう!
みたいなことにはならないと思う。
あってケージを使って捕獲するゲームとかじゃないですか、たぶん。

無から生み出すには少々突飛すぎるアイテムな気がするなぁという思考の下、
とりあえずモンスターボールは実在すると仮定して話を進めることに。

しかし、一生ボールにしまっておけるってのは現実世界では考えづらい。
アニメとかだとボールに入ったまま眠っている描写とかもあるけど、
あれはアニメなので面倒な現実的描写をカットしているだけという判断をした。

確かに現実世界でも基本的に檻の中に突っこんでおくみたいなことは行うけど、
モンスターボールの場合は電子化までしてしまっているのでちょっと訳が違うのではないか?
→必要に応じてしまうことはできるけれど、ずっとモンスターボールに閉じ込めておくことはポケモンの発育の観点でもよくなさそう。
→ムサシのソーナンスのような、ポケモン側から勝手に出ることはたぶん実際にありそう。ポケモン愛護的観点からしても。
→そのうえで、どんなにポケモンが外に出たくても出てもらっちゃ困る場面も当然ある。巨大冷凍室でブーバーが外に出たら損害がやばそう、とか。


よって
モンスターボールは基本的にポケモン側の意思で外に出ることができるが、
ニンゲンからロックを行うことができる。
みたいな感じになるのでは? と妄想。

しかし、そうすると一生ロックをかけっぱなしにすればいいよねという話になってしまう。
で、それはポケモンがかわいそうだ! みたいな勢力が必ず出る。
絶対これはポケモン愛護的な観点で向こうの世界ではめちゃくちゃ議論されてる。間違いない。
この世界にも過激派動物愛護団体がいるので、絶対向こうにもいる。

あと、あれだけ小さく持ち運べてしまうなら、ポケモンの密輸みたいなやつも絶対横行する。
こちらの世界でいうワシントン条約的なやつがたぶんあるので、それの違反が横行しそう。

このように永続にポケモンの出入りをロックできてしまうと、種々の問題が発生しそう。

一方で、ボールに入れておけば電子データとして生命は保存されるのであれば。
例えば、雪山で生き埋めのモンスターボールが発見されて、トレーナーは死体だけどポケモンは生きてた~~!
なんてことがあってもおかしくないのでは?
だから、永遠にロックできると良さげなことも多々ありそう。


この辺りの問題をまとめて解決する方法が、冒頭の
「ボールに入れて出入りをロックしてから既定の時間が経つと警告音を発する」
というもの。

警告音が発生すれば、普段の生活や密輸でロックし続けることはできないし、ロック解除忘れとかも防げそう。
それでいて、ポケモンを守るためにロックをしている場合は、逆に誰かに発見してもらえる助けになる。
なんなら、地震でがれきの下~~みたいな状況なら、意図的にボールをロックして音を発生させることでトレーナー自身も助けられるかもしれない。
完璧な解答では?
というところまで考えたところで

でもそれを作中で
「実はモンボはロックかけると音が鳴って~~」
みたいに書くのは、向こうの世界の物語、としては不適切では? と。
こちらの世界にはそんな常識はないが、向こうの世界ではこんなん常識なはずなので。
というわけでここで書くしかなかった。


6匹のポケモンを持っていれば一流

よく言われているやつ。
みんな当たり前のように6匹を上限として扱っていると思う。

いや持てるポケモンの数に上限があるのはさすがにおかしいだろ。
「持つ」の定義があいまいである以上、モンボのプログラムでそれを指定することはできないはずなので。
実際はもっといっぱい持っておけるし、別にもっといっぱい連れ歩けもするはず。

ではなぜ6匹を上限としてゲームが行われているかというと、
①ゲームバランスのため
②向こうの世界の公式戦の上限が6であるため
この2つのどちらか、あるいは両方だと思う。

齟齬のないように書いておくと、
僕は向こうの世界でも「ポケモンバトル」はあると思っている。
ニンゲンが総合格闘技と称してバトルを魅せているので、ポケモンがいればポケモンバトルも娯楽になると思う。

一方で、触れた通りポケモンを飼うにも当然お金はかかるはず。
動物を飼うのにお金がかかるのだからポケモンを飼ってお金がかからんわけがない。
実際図鑑説明文でもヤングースは「飼うと思ってるよりエサ代がやべぇ(意訳)」みたいなことを言っているし(図鑑説明文が正しいのか議論はまた別の機会に)。

そうすると、そもそもバトル用のポケモンを6匹持っているというのは、向こうの世界ではとんでもないエリートだと仮定しても違和感がなさそう。
僕らはあくまでゲームなのでぽんぽこポケモンを捕まえられていただけ。


なお、6って数字設定に意味があるのかは本当にはわからない。
僕らの遊んでいるゲームが向こうの世界で作られたと仮定したときに、
その「6匹」という縛りが現実に準拠したものなのか、はたまたゲームバランスを考慮したゲーム設定なのかを見極めなければいけないわけだけれど、
肝心の「向こうの世界の現実」が実際には存在しないんだから答えがあるわけがない。
向こうの世界を見られない以上、
まぁたぶん向こうの世界でも6匹用意して3匹選出するみたいなことは行ってるんじゃないですかね。
しらんけども。

ニャースタイプとガバイトタイプ

「お互い忙しいせいで全然喋れなかったのが良くなかった、あれは」

「全然性格合ってないし。わたしは広く浅くなタイプだから、せまふかタイプの人の気持ちわからなくて」

「ニャースタイプとガバイトタイプってやつ?」

「お宝の集め方で喩えてるやつだっけ。そうそう」

作中でもありましたが、
「幅広く色々なものが好き」と、「一つのものを奥深く好き」というのを表しています。

ニャースとガバイトはどちらもキラキラしたものが好きですが、その集め方が違います。
ニャースは色んなところを出歩いて、色んなところから拾ってくる。
ガバイトは洞窟の中で過ごし、自分の手で掘り出す。
みたいな。
向こうの世界にはこういう表現があっても、おかしくない、かも。

家庭を持つことはサザンドラに喩えられる

彼はいつだって必要以上に効率を求めて忙しなさげ。話しかけるのに少し勇気がいるし。
彼女は自分の気持ちに自分で嘘をつく。もっと素直に、やりたくないことはやらなくていいのに。
だいたい、ポケモンとの関わり方だって全然合ってない。
ジヘッドの2つの頭のよう。
無理に全部合わせなくても、お互いに合わない部分は放し飼いでいいのだと気付けたのは、ごく最近。
意地を張ったり考えを捨てられなかったりしないで、柔軟に。
ジヘッドたちだって、ケンカしながら許し合って、進化するその時まで仲良く暮らしているのだから。
家庭を持つことがサザンドラに喩えられる理由は、もう身をもって感じていた。

これめっちゃよくないですか。
僕はいいと思います。

サザンドラの図鑑説明文を調べたら、力は強いけど頭は悪い(意訳)しか書いてなくて悲しかったです。






おわり。
訳のわからない妄想だけの巻末も読んでくださって本当にありがとうございます。
別の作品でまたお会いしましょう。


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