注:このSSは別の場所にかつて掲げたSSを整えたものです。
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さぁ始まりました第一回ホウエンポケモンレスリング、略してポケレス……ッ!
えー、実況は私地の文が。
「解説は私カギ括弧がお送りいたします」
それではお待たせしました。選手の入場だぁぁぁッ!
赤コーナー! リングを貫く百戦錬磨のマスクの稲妻がポケレスに出張降臨ッ! マスクドピカチュウッ!
『ピッカ、ピカッチュウ!』
青コーナー! 唸る鉄腕は計算されたパワープレイッ! メタグロスッ!
『メタ……メタグrrrロォォッ!』
両者対角に位置取って——会場の熱狂の中、審判ゴーリキーがゴングを鳴らしたぁぁぁッ!
おっと、初戦ともあって両者慎重に様子を見合っています。
おぉっといきなりピカチュウが宙に浮き上がったぁ!? 一体何が起こったんだッ!?
「メタグロス選手のサイコキネシスでしょうね。様子を見るフリをして照準を定めるいい頭脳プレイです」
しかし相手は歴戦の猛者。脳に直接襲いかかっているであろうサイコキネシスのダメージもものともせず、念力を放電で打ちはらいました。
ここでピカチュウが攻めた! でんこうせっかを駆使して一瞬のうちに距離を詰めるつもりだッ!
対するメタグロス、ここは冷静にじならしで迎え撃ちました。ピカチュウ、止まれるか!?
「全方向に効果があるじならしも最適な選択ですね」
あ〜っと、ピカチュウ、止まり切れずにじならしを食らってしまいました。
振動で跳ね上がるピカチュウ。メタグロスはどう追撃するんだッ!?
メタグロスの口が強く煌めいて、これは——ラスターカノンだッ! 白銀のレーザーがピカチュウにヒット!
「いや……おかしいです。ラスターカノンは電気タイプであるピカチュウ選手に効果は今ひとつ。それはメタグロス選手もわかっているはずですが……」
流石のピカチュウも空中では受け身も取れません。黄色の肢体がアーチを描き——
『メタ……グロロロロッ‼︎』
メタグロス、天に向かって咆哮しました。何が起こるんだ……。
リングの空気が液体になったようにひしゃげ始めたッ‼︎ 歪んでいます! おかしい! 何かがッ! リング内のッ!
ピカチュウがなすすべもなく地面に叩き落とされたッ!
「……じゅうりょく、でしょうか」
じゅうりょく! どうやら、リング内は金属のような重い空気に包まれて身動きも取れない状態のようです!
続いてピカチュウに流星群が襲いかかるッ‼︎
「サイコショックを空中高くで生成し、重力でダメージアップを図っているのでしょうか」
紫色の流星群を前に——ピカチュウ、笑っている!?
ニヤリ、と。待ってました、と。ピカチュウ笑っているッ‼︎
いきなりピカチュウが立ち上がった! さっきまで強い重力に負けるように地面にへばりついていたのは演技だったのかッ!?
『ピカピカピカピカピカピカピカピッカァ‼︎』
むしろ無重力状態のように華麗に宙を舞って——硬化した尻尾が念波塊を次から次へと打ち返していくッ!
アイアンテールッ! これが肉体派にもかかわらずピカチュウ選手に飛び道具は通用しない理由だあああッ!
全ての念波塊を捌ききって、ピカチュウが走り出した!
体が次第に電気を纏っていきます。これは、来るのかッ!?
「いえ、電気の量がボルテッカーに比べて違います」
ピカチュウの代名詞とも言える必殺技の代わりにピカチュウが放つのは——
空気を割いてリングに電撃が這い回るッ‼︎
『エレキフィールドですね。これでピカチュウ選手に有利な場が整います』
エレキフィールドによる場の展開は、頭脳でも負けないというメタグロス選手への挑発なのでしょうかッ!?
ピカチュウはそのままメタグロスへ突っ込んでいきます。
メタグロス、同じように地ならしで迎え撃つ模様ですッ!
このままではさっきと同様止まれずに地ならしを食らってしまう! ピカチュウどうするつもりだ!
ピカチュウの尻尾に電気の塊が宿って、そのままメタグロスへ発射されます。
なんとっ‼︎ ピカチュウがものすごいスピードで後ろに飛んでいきますッ! まるで攻撃を受けたかのような吹き飛び具合だッ!
「ボルトチェンジをうまく使って避けましたね」
同じ手を2度も喰らわない、そんな意図がピカチュウの背中から伝わってきます。
これによって、メタグロスの地ならしは不発になってしまいました。
両者の距離も離れ、一旦仕切り直しと——
違うッ! ピカチュウ、減速することなくリングのロープに突っ込みました! ロープだ! ロープを利用しようとしているッ‼︎
ピカチュウの体が金色に輝くッ! これは、かの有名なあの技が来るのか——?
出ましたああああッ! ピカチュウの代名詞、ボルテッカーッッ!! しかもロープの勢いも相まってすさまじい速度ッ!
対するメタグロス、リフレクターを張りました。これで攻撃を防げるか!?
さぁ、ピカチュウがリフレクターにぶつかったッ!
凄まじい量の電気がリフレクターを打ち壊すべく弾けています!
相変わらず凄まじいボルテッカーの威力ですが、まだリフレクターに受け止められています。
「しかし、このリフレクターが壊れるのももう時間の問題でしょう」
メタグロス、リフレクターを重ねがけし始めた!
3枚——いえ、4枚重ねのリフレクターが完成してしまった! これでは流石にボルテッカーでの突破は厳しいか!?
おっとピカチュウ、リフレクターに張り付いたまま10万ボルトを放ったッ!
物理攻撃を受け止めるリフレクターをすり抜けて、稲妻の槍がメタグロスを貫いたあああ!
「エレキフィールドもありますし、これは相当なダメージになるでしょう」
煙をあげるメタグロスの体は——しかし、地には倒れない!
と……ぴ、ピカチュウが吹き飛びました! 一瞬のうちに一体何があったんだ!?
「バレットパンチが炸裂したようですね。クリーンヒットです」
跳ね飛ばされて開いてしまった距離を、ピカチュウ選手はでんこうせっかで詰めようと試みるようです。
一方メタグロス、またしてもリフレクター!
ピカチュウが再度リフレクターにぶつかって……これは、千日手というやつなのでしょうか!?
「ッ! みなさん、ピカチュウ選手の背後にご注目ください!」
な、なんと! メタグロスはリフレクターを2枚展開してピカチュウを押し潰そうとしているようだッ! ピカチュウ、これに気付けるか!?
気づかずそのまま10万ボルトを打ち出そうとしているピカチュウの背後に、そろそろと死の壁が迫ります。
10万ボルトが発射され——る寸前! 危機一髪、リフレクターの方が先にピカチュウに到達しました!
2枚の強固な板に挟みあげられてもがくピカチュウ。抜け出せるのか!?
絶好のチャンスとばかりメタグロスも攻撃の準備を始めた!
十分に力を溜めて放つは、コメットパンチ!
メタグロスの得意技にして、最強の一撃がリフレクター越しのピカチュウに炸裂したッ!
自身が張ったリフレクターすらもかち割って、狂気の鉄拳がピカチュウを押しつぶすッ!
「半減とは思えない凄まじい威力——さすがコメットパンチといったところでしょうか」
再び吹き飛ばされるピカチュウ! 3度も同じようにでんこうせっかで近づくことはできないか……!
血のように真っ赤なほっぺたが急速に火花を散らし始めました。10万ボルトの前触れだっ!
初手の牽制からとどめまでオールマイティな仕事をしてきた、ピカチュウの強さそのものとも言える電気タイプ界最速の一番槍がメタグロスへ飛んでいく!
「これは避けられないでしょう、耐えられるかがポイントと——」
メタグロス選手の重厚な巨体が、一瞬にして消え去ったッ!
これによって10万ボルト空中を横切って霧散してしまいます!
一体どこへ行ったんだ——
横だッ! 先ほどまでいた場所よりもメタグロス3匹分もの間を、テレポートのように一瞬で移動したのかッ!?
「テレポート……では、ないでしょう。覚えませんから。これは、おそらく、サイドチェンジでしょうか」
サイドチェンジによって急速な横移動を実現したかもしれないとのことですが、実際何が起こったかは未だベールに包まれたままのようです。
虚を突かれて一瞬惚けるピカチュウの斜め45度右。
メタグロス選手がパワーを溜めているッ!
口はどす黒く染まって、これは……はかいこうせんだあああッ!!
全てを滅亡させんとするオーラをまとったビームを浴びて仕舞えばひとたまりもありません!!
ピカチュウも気づいたッ!
もうエネルギー充填もだいぶ進んでいる状況。さぁピカチュウはどう避けるのか!
走り出すピカチュウ! まっすぐメタグロスへ向かって走り出した! 自殺行為にも等しい行動、何をするつもりなんだッ!
そのまま跳躍、そしてはかいこうせんを溜めているメタグロスの頭頂部をタッチ!
同時にメタグロスの周りを星が弾けました。
メタグロスの後ろ側に着地するピカチュウ、しかしきっとメタグロスとてはかいこうせんを溜めつつも振り向く——
おぉっと漆黒の光の柱が天を切り裂いたッ!!
神の裁きと見まごうほどの甚大な威力、リングの天井もぽっかりと穴が開いて真っ青な晴天が覗いています!
しかしなぜだッ! なぜこれほどの威力をピカチュウめがけて放たなかったのでしょうか!?
「はかいこうせんは威力が高いといっても、先ほどのものは度を超えています。ピカチュウ選手の行動から考えるに、手助けによって体内に予期しなかったエネルギーが増えて暴発してしまったのではないでしょうか」
さすが解説さん、的確な分析をありがとうございました。
そして、メタグロスははかいこうせんの反動で動けないッ! このまたとないチャンスをピカチュウはどう行動する——ッ!?
ピカチュウ再び跳躍! またもや片腕一本だけでメタグロス選手の登頂に着地!
同時にメタグロス選手の体を小さな電気が一瞬走り回りました。
でんじは、にしてはメタグロスの顔は痺れに歪んでいない。一体なにをしたのでしょうか。
着地と同時にピカチュウが構えた! 目を閉じ集中して気を溜めるその姿は正に格闘家の鑑。
カッと目を見開き、小さな拳にこもった必殺の威力がメタグロスのばってん鼻面に命中だあああああッ!
しかし同時にメタグロスも動けるようになりました。
狂気の気合パンチにも怯まず、サイコキネシスで早速ピカチュウをロック! ピカチュウはメタグロスの鼻先から逃げることができません!
四方八方から念波の塊がピカチュウをリンチにかけるッ!
サイコショック、サイコショック、サイコショック!
くまなく全方位からの攻撃にピカチュウはなすがまま、どう切り抜ける——
おっと、ここでリング内の歪みが元に戻っていきます。重力の効果が切れた模様です。
…………な、なんだッ!!
いきなりメタグロスが浮かび上がったッ!!
メタグロスもこれには困惑の表情、いくら脚をもがいても地面は遠くなるばかりです!!
地上では、見事サイコショックの雨を耐えきったピカチュウが不敵な笑み。
「そうです! でんじふゆうです!」
……でんじふゆう、と言いますと?
「ピカチュウ選手は重力中にわざ、でんじふゆうをかけたんです。すると重力作動中は押さえつけられていてなにも起こりません。しかし重力が切れた途端、いきなりでんじふゆうの効果が現れて体は浮かび上がるのではないでしょうか!」
なるほど、ここでもピカチュウの高度な頭脳プレーを垣間見ることができましたね。
ピカチュウ選手、飛び上がった! これは、今宵もあの技を見ることができるのか——
メタグロスの頭頂部でピカチュウの体の上昇が止まり、下降に転じます。
でんじふゆうの強く浮き上がる力も無視して、メタグロスの巨体がピカチュウとともに落下していく!
決まったああああああッ!! これぞまさしくマスクドピカチュウの代名詞、フライングプレスッ!!
そしてそのまま流れるように——
10万ボルトッ! メタグロスの金属の体を高圧電流が嵐のように駆けずり回るッ!
ここでついに、メタグロスが地に脚をついたッ!
審判ゴーリキーがカウントを始めました。
10……9……8……。
起き上がろうとしているッ!! 強い闘志が、まだ終わっちゃいないと語りかけているッ!!
7……6……5……。
しかしむなしきかな、脚は思うように動かないッ!!
4……3……。
不敵に笑うピカチュウ、睨みつけるメタグロスッ!!
2……1……。
メタグロスの脚が再び沈んで——
0。
勝負あったああああああッ!!
結果はマスクドピカチュウ選手の勝利ッ!!
初戦から実に濃い試合を見せてくれた2匹の選手に、会場の皆さんも、画面の前の皆さんも盛大な拍手をお願いしまあああすッ!!
さぁ、まだ初戦。私たちの熱い熱い夜はまだこれからです。引き続きお見逃しなく!