注:このSSはむかーしポケモンBBSという掲示板に掲げたSSを整えたものです。
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リーリエ「ヨウさんヨウさん! ここの観覧車はつい先日出来たそうですよ!」
くるりんと回って、わたしは自分の半歩後ろを歩くヨウさんに振り返りました。
ヨウさんは眉をぴくんと少し上げます。
これは、何か気にかかることがある顔でしょうか。
あまり感情を出さないヨウさんですが、今ではわたしもなんとなく小さな違いが分かるようになっているのです。
ヨウ「観覧車? 今目の前にあるやつ?」
リーリエ「はい! わたし、観覧車はまだ乗ったことがないので乗ってみたいです!」
すると、なぜかヨウさんは困惑したような顔に。
その頰は、心なしか普段よりも赤くなっています。
なぜなのかは、すぐにわかりました。
ヨウ「観覧車って、普通はカップルで乗るやつ……なんだけど?」
リーリエ「っっ……!!?」
その言葉は、喉が声にならない声を上げるくらいの驚きとなってわたしを揺さぶりました。
知らなかったとはいえ、恋人同士でもないのにカップルで乗るものに乗ろうなんて言われたら……ヨウさんは、どう思ったのでしょうか。
うぅ、悪く思われていないといいのですが。
失敗したなぁ、と少しうつむき気味に考えていたら、急に体が引っ張られました。
ぐいんと揺らぐわたしの後ろを、背の高いカップルが通って行きました。
ヨウさんはいつも、さらりと当たり前のようになにも言わないでわたしを助けてくれます。
——そんなところも、とっても好きなのです。
ヨウ「ね? 行ってもカップルばっかだよ?」
確かに、観覧車に近づくにつれて男女の比率は1対1に近づいているのでした。
……とそこで、わたしは思い出したのです。
この遊園地に来る前に、決めたこと。ヨウさんに少しでも意識してもらいたい、という目標を。
よく考えたら、観覧車は絶好のチャンスを作ってくれる乗り物なのです。
そのチャンスを逃すわけにはいきません。
リーリエ「……それでも、それでもいいのです。観覧車に乗れるなら、別に……」
ヨウさんと乗りたくて、だなんてとても言えませんでしたが、ひとまずちゃんと喋ることだできただけわたしにとって大きな進歩でした。
ヨウさんは眉を傾けハの字を作り、「しょうがないなぁ」と言いたげな顔。
ヨウ「ん……俺は別に行ってもいいけど? どうせ暇だしな」
リーリエ「ほ、ほんとですか!? あ、ありがとうございます!!」
こくんとヨウさんは頷いて、さっきわたしを助けるために出した手をポケットにしまいました。
レックウザさんのように長かった列も、ヨウさんとなら時間は一瞬です。
回る観覧車を前に、まずはお金を払わなければなりません。
お財布を探していたそのとき、受付の方がおっしゃったことに、わたしの手は止められました。
受付嬢「ただ今、カップル割引を行なっております。よろしければどうですか?」
一瞬にしてわたしの頭がカップルという言葉に埋め尽くされます。
安くなるのはもちろん嬉しいのですが、ヨウさんと……か、カップル!?
財布を持ったままわたしは固まってしまいました。
すると、財布を持っていない方の手に温かいものが滑り込んできて——
ヨウ「じゃあ、それでお願いします」
——ヨウさんがわたしの手を取って、やっぱりさほど変わらない表情で受付の方に答えるのです。
金額を言われてやっと再起動したわたしは、ひとまず速い鼓動を抑えてお金を払いました。
受付の再び先の列に並び直すと、再びヨウさんがわたしの手を握ります。
リーリエ「あ、あの、ヨウさん? 手……」
ヨウ「あ、いや、カップルっぽく見えるかなと思ったんだけど。嫌だった?」
リーリエ「いえ、そんなことはないです! その、突然だったので驚いてしまって。
ヨウ「そっか。よかった」
ヨウさんの大きな手のひらから伝わるエネルギーは莫大で、わたしの心臓は一瞬にしてテッカニンさんのように加速していきます。
ヨウさんはこれくらいなんとも思っていないのでしょうか?
横目でこっそり様子を窺ったら、頰と鼻の頭が少し赤くなっていました。
言ったら怒られちゃうかもしれないですけど、とっても可愛らしいです。
とそんな風に、手の温もりと自分の鼓動の速さにドギマギしているうちに、列の先頭まで来てしまいました。
係員さんの先導でヨウさんから小さな小さなスペースに乗り込みます。
続けてわたしも入り、ヨウさんと対角の位置に座りました。
静かに扉が閉まる音は、これから少なくない時間をこの狭いスペースで2人っきりになることを表しているのです。
リーリエ「…………」
ヨウ「…………」
向かい合う座席と座席の間には人1人分の幅しかないので、対角に座っているはずなのに膝が触れ合いそうになってしまいます。
話すことがなくて少し気まずいような空気を払拭するべく、わたしはなんとか声を絞り出しました。
リーリエ「……お、思ったより、狭いんですね」
ヨウ「みたいだね。俺も知ってるのはもう少し広いのだよ」
リーリエ「そ、そう、なんですか……」
正直、頭の中はヨウさんのことでいっぱいで、他に何も考えることができません。
とても落ち着くことなんて出来なくて、スカートを無意味に整えたりしてみるのでした。
気まずいまま終わるのは嫌ですから、まずはなんとか落ち着かないといけません。
ちらり、ヨウさんを見てみたら、バッチリ目があってしまいました。
びくん、と心臓が大きく飛び跳ねて、わたしはすぐに目を逸らしてしまいます。
状況は好転するどころか、さらに気まずくなってしまったのでした。
虚ろに外を眺めながら、わたしは心を決めました。
リーリエ「あ、あの」ヨウ「ねぇ」
リーリエ「え……」ヨウ「あ……」
まさか、こんな時にタイミングが被ってしまうなんて。
混ざった感情には恥ずかしさももちろんあるのですが、ヨウさんと同じタイミングだったという嬉しさもまた確かにありました。
リーリエ「よ、ヨウさんからどうぞ」
ヨウ「俺のは別にいいよ。リーリエから言って」
リーリエ「はい……あの、ここ日が当たって少し暑いので……そちら側に移動してもいいですか?」
これは、ヨウさんの隣に座るためにわたしが考えに考えた末の策でした。
理由付けがうまく言ったかはわかりませんが——
ヨウ「ん? あぁ、確かに暑そうだな。交代しようか」
リーリエ「え、そ、その……」
——どうやら、上手くいかなかったみたいです。
もう、本当にヨウさんは鈍感なんですから……。
ヨウさんがさっさと立ってしまうので、流されるようにわたしも席を立ってしまいました。
リーリエ「……そういえば、ヨウさんは何を言おうとしてたんですか?」
ヨウ「いや、そっち側の景色が綺麗だったからリーリエも見るかなって思って」
ヨウさんも席を交換することを考えていたみたいです。
しかし、そう納得したところで、やっぱり不満は収まりません。
リーリエ「……確かに綺麗ですね」
ヨウ「どうしたの、リーリエ? 体調悪い?」
リーリエ「はい? 大丈夫ですよ」
ヨウ「ならいいけど。そっちも日は当たってないけど暑いからね」
——もしかして、ちょっと不機嫌になってしまっていたでしょうか?
せっかくヨウさんとの……その、デートなのに不機嫌になっていてはいけませんね……。
リーリエ「——ひゃぅ!?」
ヨウ「どうしたの!?」
リーリエ「あ、いえ……なんでもありません。気にしないでください」
……今のは、ヨウさんの膝とわたしの膝がぶつかってしまっただけなのです。
たったそれだけなのに、わたしはなんて反応をしているんですか。
ヨウさんにも心配されて、恥ずかしいです……。
——もう、頂上もだいぶ過ぎてしまいました。あの後、何も喋れていないのに……わたし、どうしたら。
考えても考えてもなにかが生み出されることはなく、わたしの目は自然と空に向きました。
時間帯のせいで赤と青が混ざり合うグラデーションがとても綺麗です。まばらながらにかなりの面積を占める雲もオレンジ色に染め上げられていました。
……ヨウさんは、この空に似ている気がします。広くて、頼れて、時々雲に隠れて何を考えてるのか分からなくて。
そんな力強いところも、勇敢なところも、ミステリアスなところも……全部、とてもカッコいいのです。
ヨウさんが空なら、わたしはあの太陽…………に、なれたら、いいな。
暗くならないように、いつでも照らしてあげられるような、夕陽の朱色みたいに温かい存在に——って、なにを変なこと考えているのでしょう。
ヨウ「何見てるの、リーリエ?」
突然話しかけられて、わたしの肩はびくりと跳ねました。
ヨウさんの方を見たら、ヨウさんはこちらをじっと見つめていて、余計にパニックになって。
どうにか出した答えも、しどろもどろでした。
リーリエ「えっ? あ、えっと、その……太陽が夕陽になりかけててきれいだなって」
ヨウ「夕陽? 本当だ、もうそんな時間なのか」
ヨウさんが外を見ているうちに、なんとか心を立て直すことができました。
リーリエ「ですね。今日は、時間がすぐに経っちゃいました」
ヨウ「確かに、もうそろそろ終わりだもんね」
リーリエ「えっ……? ……ほ、ほんと、ですね」
ヨウさんの言葉はわたしの予想の完全に外でした。
思わず外を確認しましたが、嘘でもなんでもなくもう少しで終わってしまうのです。
さっきまで頂上だったはずなのに……こんなときディアルガさんがいたら、時間を巻き戻してもらえるのでしょうか。
さすがにこの状況はとってもマズいです。マズすぎます! ……せ、せっかくのチャンスだったにに、このままでは何もせずに……!
ヨウ「降りる準備しないといけないね」
リーリエ「え、あ、そ、そうですね!」
ヨウさんが荷物を確認し始め、つられてわたしも同じ行動を取ってしまいます。
そのせいで、最後の最後に何か行動を起こす時間も許されません。
ヨウ「もう終わり、だよね? これ、回ってるけどどうやって降りるんだろうね」
リーリエ「係員さんが誘導してくださるはずです……」
ヨウ「あ、本当だ。係員さん来てくれたね」
ヨウさんに答える声も、自分で分かるくらいに落胆していた気がします。
……でも、もう手遅れですよね。また次頑張ることにしましょう。
リーリエ「はい……落とし物なんかないですか?」
わたしはヨウさんの心を落としたかったのですけれど。
他人事のように下らないことを考えていた、その時でした。
ヨウ「忘れるほど物持って来てないしね。大丈夫……あっ!?」
リーリエ「か、係員さん!?」
果たして、足でも滑らせてしまったのでしょうか。
私たちが載っているゴンドラの扉を開こうとした係員さんが転んでしまったのです。
出るはずだった扉は開かないまま、降りられるゾーンは半分を過ぎ。
何度も頭を下げて「すみませんすみません!」と言っていそうな係員さんはどんどん遠くなっていきました。
リーリエ「係員さん、大丈夫なんでしょうか?」
ヨウ「でも、おかげでタダでもう一周楽しめるね。やったじゃん」
リーリエ「は、はい! そうですよね!」
あまりにも意外というか、ちょっとした事件が起こったようで呆然としていたわたしでしたが、ふと気がつきます。
よく考えたら、ダメダメだったわたしが勇気を振り絞る最後のチャンスなのです。
これを逃したらもうあとはないのかもしれません。
リーリエ「あ、あの」
ヨウ「ん? どうしたの?」
リーリエ「その……また見る景色変えてみたいんですけど、と、隣に座ってもいい……ですか? せ、せっかくの2周目なので」
ヨウ「ん、いいよ」
いそいそとヨウさんが開けてくれた場所に座りました。
狭いゴンドラの中で、しかも更に距離が縮まって、わたしの頭はもう真っ白でした。
ちゃっかり手を重ねることに成功したのも、だからこその大胆さだったかもしれません。
ヨウ「リーリエ……? どうしたの?」
リーリエ「え、いや、その、ですね、……さっきあそこにいたオニドリルさんがこちらを見たような気がして」
頭が真っ白になっている弊害に、言い訳が全く出てきません。
理由を考えるというよりは、苦し紛れに話題をズラしただけだったのですがヨウさんはそれに乗ってくれました。
ヨウ「オニドリル? どこどこ? 見たいんだけど」
リーリエ「あ……もうさっき飛んでいってしまいました」
実はオニドリルさんの話でさえ作り話なのですが、「嘘です♪」なんてスイレンさんのように言えるわけもありません。
ヨウ「そっか。もうちょっと早く教えてよ〜」
リーリエ「す、すみません……」
ヨウ「別にリーリエのせいじゃないよ。それより、まだ飛んでたりしないかな?」
ヨウさんが座席から身を乗り出すように後ろや横を確認し始めます。
実はオニドリルさんは真っ赤な嘘なのですが、仕方がないのでわたしも一緒になって探しました。
さりげなく、わたしに向けられているヨウさんの背中に手を置きながら。
じんわりと手のひらに伝わってくるヨウさんの体温が、わたしの全身を温めていきます。
心臓は高鳴って留まることを知らず、どんどん胸が苦しくなって、それでもヨウさんとくっついているのはやめられません。
突如、風に煽られてゴンドラが揺れました。
もちろん中にいるわたし達も大きく揺られます。
リーリエ「きゃあっ!?」
本当にオニドリルさんがいて風を起こしたことはないにしても、不運なタイミングでした。
何故なら、ヨウさんに少しでも触れるため、わたしは不安定な体勢になっていたからです。
突然のことに驚いて、考えるまでもなく近くのものに抱きついて何とか転ぶことを防ぎました。
ヨウ「だ、大丈夫? ぶつけたりしてない?」
リーリエ「大丈夫です——」
ヨウさんに話しかけられて、わたしは声の方向を向きました。
すると、視界いっぱいにヨウさんの心配した顔が現れたのです。
リーリエ「——え、ひ、ひゃぁ!!」
バネブーさんのように勢いよく飛び跳ねるように、わたしはヨウさんから離れました。
ヨウ「うわわっ!! 急にどうしたの!?」
わたしのオーバーすぎるリアクションにヨウさんが驚くのも当然です。
リーリエ「い、いえ、な、なんでもないです。……本当に、なんでもないんです」
ヨウ「そ、そっか……」
ヨウさんは納得していない風な答えを返しつつ、外の景色を見始めてしまいます。
わたしはといえば、外を見ることすらできず自分で自分の体を抱きしめて俯いていました。
——腕にはまだヨウさんの腕の感触がずっと残っています。
こんなの、忘れられっこないのです。あの、たくましさも優しさも強さも秘めた腕が、脳を蝕んでいくみたいに焼き付いて。
観覧車の前にいた方々は彼氏の腕に抱きついている人もいましたが……こんなの、とても耐えていられません。
わたしが体の熱を持て余して困っているのも知らず、ヨウさんが外を見たまま呟きました。
ヨウ「……夕焼け、綺麗、だね」
リーリエ「はい、本当に……」
ヨウ「……リーリエみたい」
わたしは、耳を疑いました。
一瞬で頭が真っ白になって、魂の抜けた喉から間抜けな声が出ます。
リーリエ「……えっ?」
ヨウ「えっ? ……あっ」
ヨウさんの顔が一瞬でバオップさんのように茹であがりました。
でも、わたしは、確かに聞いたのです。
その瞬間から、わたしを抑える何かがついに耐えきれずに外れました。
リーリエ「あ、あの……今、なんて言いました?」
ヨウ「いやこれはその……うん。なんでもないから! 聞かなかったことにして!」
手を振って必死に取り繕うヨウさんににじり寄ります。
ずいっ、と顔をヨウさんの目の前に持ってきて、わたしは半ば叫ぶように抑えていたものを溢れさせました。
リーリエ「そんなの……そんなこと、できるわけないじゃないですか! だって、ヨウさんが……ヨウさんは…………」
リーリエ「あの、私——」
リーリエ「——ヨウさんが、あなたのことが好きです」
リーリエ「初めて、遺跡の前の橋で助けてもらった時からずっと、大好きだったんです」
自分でもびっくりなくらい衝動のままに、言葉が紡がれていきます。
リーリエ「。一緒に旅をして、もっと、更に好きになってしまって。……そんな人から、綺麗、だなんて言われたら、気になっちゃうじゃないですか……!」
わけもわからないまま声は震え、視界は滲み、それでもまだわたしの喉は動くのです。
リーリエ「……目も、鼻も、口も、腕も、手も、爪も、脚も、シルエットも、喋り方も、立ち振る舞いも、優しいところも、強いところも、こんなわたしにずっと付き合ってくれることもみんな……みんな、大好きです……」
しりすぼみに語尾が消えていって、わたしは口をつぐみました。
あぁ、我ながらなんてことを言っているんでしょうか……!
全部言い終わったことで急に客観的な視点ができて、恥ずかしくて死にそうです。
ヨウさんは不意を突かれたように驚いた顔を苦笑に変えました。
やっぱり、こんなに色々と言ってしまってはダメだったのでしょうか……。
心配に気分が落ち込んで俯くと、視界が真っ暗になりました。
わたしの腕とヨウさんの腕が交差し、背中に温かくて広い手のひらが添えられます。
そうして、わたしの頭に顔を埋めて、ヨウさんは言うのです。
ヨウ「俺も……俺も、リーリエが……好き、だよ」
リーリエ「……っ!! ほ、本当、ですか!?」
びくりと起き上がると、今度はヨウさんがわたしの肩に顔を置いて、
ヨウ「こんなところで嘘なんか言うわけないでしょ?」
そう、囁くのです。
そんなの……そんなの、反則です。
戸惑い、喜び、熱情、満足、安堵、愛おしさ。そんな類の色々な感情が、判別もつかないまでに混ざり合って、溢れ出て目から零れます。
視界は滲んで、勝手に嗚咽を漏らすのども、とても理性では収集がつきません。
ドラマなんかで見る「感極まって」という気持ちが、とても言い表せるような代物ではないことをわたしは初めて知りました。
ヨウ「え、その、俺何かした!?」
リーリエ「違います……嬉しくて、嬉しすぎて、つい……」
ヨウ「なんだ……ふふっ、俺も嬉しいよ」
ヨウさんは「しょうがないなぁ」と言わんばかりの口調でそう返してくれました。
そして、ヨウさんに抱きついているわたしを優しく撫でてくれるのです。
それはまるで、親の腕の中にいるような、絶対に安全だと信じられるような、そんな安心感すら感じてしまう手つき。
溢れていた感情の渦も、一瞬にして平静を取り戻します。
ヨウさんから顔を上げて、わたしは遠くの景色を眺めました。
リーリエ「……夕陽、海に当たって綺麗です」
ヨウ「そうだね」
ヨウさんは簡潔にそれだけを答え、その代わり、わたしの右手を取って優しく撫でました。
よく見たらヨウさんの耳は夕陽に負けず劣らず真っ赤になっています。
そんな恥ずかしがっているヨウさんが可愛くて、わたしはつい意地悪を言ってしまうのでした。
リーリエ「もう、そこは『リーリエの方が綺麗だよ』って言うんですよ」
ヨウ「え、それって言ってほしいものなの? 漫画とかの中だけのセリフだと思ってたよ」
リーリエ「漫画でもいいんですよ、ヨウさんのカッコイイところが見たいだけなんです」
ヨウ「そ、そっか。じゃあ、もう少しこっちに寄って」
言うだけならば近くに寄る必要はないのに——何をするつもりなのでしょうか。
期待に内心の昂りを押さえられないまま、わたしはヨウさんに体を預けました。
ぎゅっと力強い抱擁をされて、わたしの体から力が抜けおちます。更にそれだけにとどまらず——
ちゅっ
——額に、とても熱くて、優しくて、甘い感触が生まれました。
目を白黒させる余裕もくれず、ヨウさんは口をわたしの耳に寄せて、
ヨウ「リーリエの方が、ずっと綺麗で可愛いよ」
再び、囁きます。
リーリエ「〜〜〜〜っ!!?」
一瞬のうちに起きた出来事はわたしの脳みその処理能力の範疇を大きく超えていて、わたしはただ喉の奥で小さな悲鳴をあげることしかできませんでした。
ヨウ「顔、真っ赤だよ。可愛いなぁ」
さりげなく頰に手を添えて撫でてくれる仕草にまた胸が詰まります。
リーリエ「だって、その……それは、反則ですよぉ……」
ヨウ「額じゃないほうが良かった?」
リーリエ「ち、違います! ……いえ、その……もっと嬉しかったかもしれないですけど」
ヨウ「どうして欲しかったのさ。言ってみてよ」
ヨウさんが誰にも見せたことのない、少し意地悪な笑い方をしていました。
それが嬉しくて、でも言われたことは恥ずかしくて、わたしはふいっと外を見ました。
リーリエ「……ヨウさんは、時々意地悪です」
ヨウ「好きな子をいじめたくなるってやつだよ。しょうがない」
後ろから、またヨウさんはわたしを抱き寄せました。
ヨウさんの膝の上に座るような格好で、わたしは空を見上げます。
さっき見た時とはまるで変わって、一面ムラのない綺麗な朱色の空でした。雲もいつの間にやら1つ残らず消え去って、空は快晴模様。
……あぁ、幸せだなぁ。
END
昔、甘すぎ。